RECIPEFrom GRASP

「関係ない話」が生きる会議を持続させるための3つの構え

文:田中康寛(ヨコク研究所)

「会議は効率的に進めましょう」「目的や議題を定めて、それに沿った発言をしましょう」“社会人”になって教わる会議のお作法には、規律や効率にまつわるものが多くあります。特にリモート会議ではなおさら重んじられるようになり、目的や議題とは関係のない話を挿しこむ余白はますます減りつつあるという肌感です。しかしGRASPでの会議を思い返すと、「全然関係ないんですけど……」からはじまる話の種をメンバーが面白がって育てることで、プロジェクトが推進されてきました。そんな私たちの実践をもとにしながら、「関係ない話」が生きる会議を継続させるための3つの構えを紹介します。

1

計画にしばられず、
「ままならなさ」を面白がる

会議の主催者やファシリテーターからすれば、議題やルールに従って会議が計画通りに進行することは確かに理想的な状況。しかし、(声の大きな人も含めて)特定の参加者が主導権を握ることは、その人々の思想や関心に適した発言だけが受け入れられる閉鎖的な場になりかねません。逆に刺激や新奇性にあふれる発言を誘うためには、会議の場が思いもよらぬ方向へ進むことを面白がる姿勢が大切。

たとえば、「車」のアイデアを出す議題から別の議題に移ってしばらくしたのち、参加者のひとりがおもむろに話しはじめるとします。「いま思い出したのですが、先月旅行先の中東で乗った乗り物が面白くて……」。ファシリテーターは「なんでこのタイミングで……」と思うかもしれません。しかし、瞬時に意見を引き出せる人もいれば、じっくり思い返した結果意見がにじみ出てくる人もいます。もしこの場が議題や時間に厳格であれば、発言の探求は次回に回されたり、答えを急かされて浅い発言しかできなくなったりするでしょう。、そんなことが続けば、発言者は「言っても無駄だな」と察して今後は発言をしなくなるかもしれません。

会議が計画通り進むことも大事ですが、“タイミングの悪さ”よりもその内容に関心を向ける態度、場のあり方は、スローな思考から思いもよらぬアイデアに帰着する可能性があります。
それは結果的に、プロジェクトの「心理的安全性」の向上につながり、思考や発言を諦めず、一人ひとりの探究が循環する場へと発展するのではないでしょうか。

2

抽象論ではなく、主観と具体に満ちた
「生々しさ」を伝える

ある日、会議でひとりのメンバーが「関係ないかもしれないですが……私たちの地域ではカマキリの卵が産み付けられた場所の高さで今季の積雪量を予測するんです」と教えてくれました。この話題自体も面白いのですが、なにより当人の実体験に基づいて具体性に富んでいることが興味深いのです。なぜなら、話の具体性は聞いている側にとってそこに付随する概念を知覚しやすく、話を膨らませやすいからです。たとえば、地域や生き物という概念を置き換えると、「私の生まれた地域では●●で天気を判断する」「●●という昆虫も気候の変化を予知する」といった具合に各自の体験や発想が連鎖しやすいように思います。

主語が「私」の関係ない話は、往々にして具体的ではないでしょうか。週末の出来事や同僚との食事会といった雑談も(内容や話し方の面白さはさておき)聞き手が具体的な光景を想起しやすいもので溢れています。そういった自分の外側にある具体的な光景に触れることは、自分自身の再認識へと発展します。具体的だからこそ、自身の未知・無知や意見の相違点に気づきやすくなり、自分自身の知識や思想を見つめ直せるのです。

ですから、主観的で具体的な「関係ない話」を臆せず発信しましょう。あなたのその発信はメンバー固有の体験を引きだすとともに、一人ひとりの内省を深める可能性を秘めています。その結果、メンバー間の親密さを高め、プロジェクトを加速することでしょう。

3

「わからない」で終わらせず、
「わからなさ」をともに育む

意見を求められて考えがまとまらないまま話しはじめたら、意図せず議題とは関係のない話になってしまい、みんなに謝る。そんな経験はないでしょうか。こうなったときに、誰かが話を拾いあげて「それはどうやったの?」「この部分を詳しく聞かせて」と問うてくれると、「関係ない話」が整理されて具体的で面白い情報に様変わりすることがあります。たとえば、「他者との対話」をテーマに話しているとき「筋トレ中って、自分の内側と対話してる気分になるんですよね……すみません『他者』じゃないんですが」と思いついたように感想を述べた人に対して、別の人が「実は腸内細菌を研究している友人も似たことを言っていて、体内の生き物との対話も面白そうですね」と肉付けすれば、無意識に設定していたテーマの枠組みを超越した面白味が表れます。

ですから、「専門家じゃないのでわかりません」「考えがまとまったら話します」と終止符を打つのではなく、「正直わからないのですが……」「まとまってないのですが……」と前置きをしつつ、断片的にでも意見や感想を伝えることが重要です。特に「働くうえでの幸せとは何か」「30年後の私たちはどうなっていたいか」など、誰も答えを持ち合わせていない話題では、互いの「わからなさ」をその場に置いてみることから議論が育つのではないでしょうか。聞き手は断片的な話を紡ぎなおす姿勢を、話し手は”良いこと”や”正解”を言おうとしすぎない姿勢を意識するとよいかもしれません。